そう言えば十三駅前のミスタードーナツにも思い出がある
劇団には、変なルールがあった。
『パン禁止』
稽古場でパンを食べていると、N瀬座長から注意を受ける。
「パンは力(ちから)にならんから、米を食え」
というお達しなのだ。
納得いかないけれど、専制君主の元、劇団員はしぶしぶルールを守っていた。
ある日、しばらくぶりで顔をのぞかせた座長が稽古中に私を呼んで
「ちょっとドーナツ買ってこい」と耳打ちした。
えぇ?いいのかなぁ?パン禁止なのに・・・。
おずおずと聞いてみた。
―あの、ドーナツはパンに入らないんですか?
「なに?」
―あ、甘いドーナツはおやつとしてカウントして良いんですか?
おそらくパン禁止令を出したことを失念していた座長は、
「何をごちゃごちゃ言うとるねん。早く買ってこい」と宣った。
ドーナツはみんなに喜ばれ、
あの日から、実質上のパン禁止令は解かれたのだった。
今から思い返しても、やっぱりパン禁止令は非合理的だと思うんやけどねぇ。