平成女鉾には、色んなキャラクターの女性がいる。
Y嬢は物静かだが情熱を秘めた、しっかり者。
とても信頼しているのだけど、足音も小さく、
気がつくとフイと一人でどこかに消えて、作業にかかっている。
「半分野良猫やな~」と冗談交じりに言っていた。
花灯路当日は、スケジュールが詰んでいるので、
段取り良く行動することが大切。
危険時間は、18:50~19:00の、神社舞殿での準備。
舞妓さんの舞が18:50に終わった後、
10分間で奉納囃子の用意をせねばならない。
各自、何日も前から無駄のない動きをイメージトレーニングした。
私は太鼓をセッティングする役目だったのだが、
急遽、
「マイクがあるので、集まっているお客さんに説明をしてほしい」と注文された。
舞妓さんを観るため集まったたくさんのお客さんに、
ここで足を止めていただかなくてはならない。
「早くしゃべって」と言われマイクを握り、それでは準備が整うまで、と話をする。
だがいきなりの事に、思いつくネタがあまりない。
(どうしようかな~?)と思っているうちに、皆が正座して、用意が整った。
「今日は心をこめて囃します。よろしくお願いします。」
とあいさつすると、お客さんから拍手が起こった。
マイクを置こうとすると、
「Y嬢がいない」とささやきが聞こえた。
(え~?!)
と思ったが、すでに会場は囃子の開始を今か今かと待つ雰囲気。
ひとまずマイクを置いて(どうしよう?)とリーダー達に耳打ちする。
「時間厳守」
のひと言に背中を押され、太鼓の席に着席。
「ええんか?」と聞く太鼓相方にも「時間厳守」と合図を送る。
何しろ、今日はスケジュールが詰まっているのだ。
Y嬢は囃子開始直後、まさに猫のようにスルリと入ってきた。
あ~よかった。間に合った。
終演後は、第二の危険時間帯。
30分で道中囃子の準備を整えねばならない。
時間がない。時間がない。
新聞社の取材にも、駆けつけてくれた友人達にも愛想する余裕がない。
荷物を運ぶS嬢を追いかけて小走ると
「走ったら目立つえ」と注意された。
(そうか。今、何時やろ?)と時計を見たら、
なんと、19時15分!
あれ?本来なら、奉納囃子が終わる時間やん。
てことは・・・!!
実際、奉納囃子はかなり前倒しで始まったらしい。
そもそも舞妓さんが早く終わり、私達の準備も驚異的な早さで整ったようだ。
Y嬢だけは時計通りに行動していたので、正しかったのだ。
時間厳守していたのは、Y嬢の方だった。
申し訳ないことをした。
19時開始を目指していたお客さんにも。
唯一の救いは「私、野良猫と言うより、ドラ猫やな」とY嬢が笑ってくれたこと。
ネコちゃん、びっくりしたなぁ。
ごめんやで。ミルクでも飲みよし。