職場のメールニュースに寄稿したブックレビューが、「熱いですね」と好評だったので、ここにも掲載しておきます。
杉浦日向子著『うつくしく、やさしく、おろかなりー私の惚れた「江戸」』
(筑摩書房 2006)
この春、手術のため、附属病院に入院した。
医師や看護師、スタッフの皆さんに大変お世話になった。
激務の中、丁寧に説明、施術、看護いただき心より感謝申し上げる。
消化器系なので、「お通じはありましたか?」「ガスは出ましたか?」が挨拶のように交わされる。
一日中ベッドにいると、自分が“糞袋”であることを自覚する。
術後「院内であれば歩行してよい」と許可を得て、エレベーターホールの院内図に『患者図書室ほほえみ』の存在を見つけた。(すっかり忘れていた)
点滴を転がしながら足を踏み入れた途端、みるみる自分が潤うのを感じる。
世界の歴史、珍しい虫の図鑑、美しい風景、生命科学の謎、作詞家の伝記…次々と知りたいこと、読みたいものが現れる。
新しい本の香り立ち込める図書室で読書し、数冊を借りて病室へ持ち帰った。
『患者図書室ほほえみ』の存在がオアシスのように、私の知識欲や感性がよみがえり、糞袋に背骨が生えて、シャンとした。
ちなみに”糞袋”とは、上記本から学んだ言葉である。
江戸人が好んで口にする自嘲は「人間一生糞袋」というタンカらしい。
結局のところ生物は「食べて糞して寝て起きて、死ぬまで生きる」ものであるが、生きている間は背骨も使いたい。人間だもの。
(患者図書室ほほえみ、京都府立図書館所蔵。)