ひめ日記3

日詰千栄の日々を綴ります。芝居のこと、祇園囃子のこと、京都のこと。

妖怪バス

今日は、前々から楽しみにしていた、寿司屋で会席を食べる日。
カンカン照りだけど、浴衣にしよう。
大粒の汗をかきながら、張り切って着たはいいものの、
帯を締めている時点でゴロゴロと天の音。

家を出る頃には、嵐。
雷はバリバリ、空を引き裂くように音を立て
竜巻が段ボール箱を上空30メートルくらい飛ばしている。
雨は横から下から降き上げる。

バス停で待っている人々は、
ひとかたまりで停車柱に隠れている。
老夫婦はマンションの下へ避難した。
おじさんは「目の前で乗りたいバスが行ったんや。ギリギリアウトや」と言った。
白いズボンが足に張り付いて、鮮やかな柄のパンツが透けている。

ビュービュー吹く嵐の中では、やってくるバスの灯りが救助船に見える。
バスに乗ったはいいものの、ビトビトで席にも座れない。
ガラガラバスに、水滴をポタポタ垂らしながら立つ、浴衣女。
自分で言うのも何だけど、まるで妖怪バスだ。

寿司屋に着いたら、雨が上がった。
さっきの嵐が嘘みたい。
食べ終わった後、
座布団にしみこんだ水の跡だけが、私の記憶を助けてくれた。