ひめ日記3

日詰千栄の日々を綴ります。芝居のこと、祇園囃子のこと、京都のこと。

黄色号のお輿入れ

黄(黄色い自転車)「失礼します」
女(持ち主)「あぁご苦労様。入りよし」

 (黄、ふすまを開けて入ってくる)

女「ゴホン(咳払い)、どうえ?調子は」
黄「へぇ。おかげさまで屋根のついてる駐輪場で、あんじょうさしてもろてます」
女「それは良かった。あんたが元気なんは毎日見せてもろてるえ。今日お呼び立てしたんは、ちょっと話があってな」

 (女、居住まいを正す)

女「先だって、グッキー号が帰ってきた記事を読んだお嬢さんから、あんたを婿にもらいたいと申し入れがあったんよ。私の友達やさかい、人柄はよう知ってる。働き者で気立てのいい、伏見のいとはんや。あんたさえよかったら、話進めようと思うねんけど、どうえ?」
黄「伏見の・・・いとはん?ですか?」
女「新車で買うた半額出してくれるんやて」
黄「中古の自分にですか?」
女「あちらさんも黄ぃやんのことを大事に思ってくれてはる。すでにチェーンの鍵も用意しておられるそうや。」

 (黄、泣く)

女「いや私かて、あんたのことが憎くて婿に出すんとちゃうで。あんたは素直で癖のない、ええ性格や。その色合いもシュッとしてる。どこに出しても遜色ない自転車や。それに比べてグッキーは癖があるさかい、扱いが難しい。サドルは堅いしブレーキは効きすぎる。ライトをつけたらシーシーうるさい。その上パンクも多い」

 (ふすまの向こうから声。)

グ「全部聞こえてるで~」
女「聞こえるように言うてるねん。なんであんたが貰い手ないか、よう分かってもらわなあかん」

 (グ、ふすまを開けて入ってくる)

グ「おまえ、おとなしく聞いてたら好き勝手言うてからに・・」
女「(黄に)というわけでな、この人あんたの何倍も世話がかかってるねん。お金かて、どれだけかけたか。せやけどその分、手放せへんのよ。情っちゅうのが生まれてるのよ」
グ「それ、ホステスにかけた資本金によって客が離れられへんのと同じ理屈ちゃうけ?」
女「何よ?文句ある?」

 (女、グ、一触即発)

黄「ええんです!自分、喜んで伏見に身請けしてもらいます。」

 (女、グ、止まる)

女「ほんま?!」
黄「中古の自分を大事に思ってくれる、それだけで嬉しいんです。それに、もうお二人には自分に気兼ねなく仲良くなってほしいです」

グ(半泣き)「黄ぃやん・・・!!」

女「ほな決まりや。伏見のいとはんに連絡つけとくさかい」
黄「短い間でしたが、お世話になりました」

 (黄 三つ指を突いてお辞儀)
 (女・グ 「・・・」涙をこらえる)

女「ほんなら、今晩は二人で枕並べて寝よし」
グ・黄「えぇっ?!」
女「積もる話もあるやろ。水入らずにするさかい」

その夜、2台の自転車は駐輪場でひっそり肩を並べました。
どんな話をしたかは知りません。
とは言え、ここまでの会話も私の妄想です。
ただ黄色号が伏見の友人にもらわれて行ったのは本当です。

伏見の友人は「飲酒運転になるから」とお酒も飲まず、黄色号に乗って帰りました。
着いたら早速「仲良くやっていけそう」とメールをくれました。
ご心配くださった皆さま、ご安心を。
黄色号が幸せになって、私も嬉し(くて、ちょっと寂し)いです。