ひめ日記3

日詰千栄の日々を綴ります。芝居のこと、祇園囃子のこと、京都のこと。

『江戸とアバター』

自粛奨励期間中、『ブックカバーチャレンジ』のリレーが回って来たけれど、他の本を紹介する前に、読まなきゃいけない本が数冊あって、バトンを受けることができなかった。

 

その1冊が2020 年3月30日に朝日新書から発行された、池上英子先生、田中優子先生の

『江戸とアバター 私たちの内なるダイバーシティ

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池上先生はニューヨーク在住の歴史社会学教授。

平成女鉾の取材で知り合い、その後NYで食事をご馳走になったり、大阪で上演した芝居を観に来ていただいたりする間柄。

 

『江戸とアバター』は出版社から送られてきた。

一旦読み始めると、とても面白い。

西洋の「個人主義」に対して、アジアは「アバター的分身主義」だと言う。

曼荼羅の「分身仏」はサンスクリット語で「アバター」らしい。

 

江戸時代に生きた渡辺崋山は武士であっても画家であり、思想家であり、蘭学に明るく、俳諧もひねる。その場その場で分身を使い分ける人であった。

そんな風に10ぐらい名前を持って活動する、隠れ家的交際を上手に使い分ける文化があった。

現代でも、ネット上の仮想空間に別人格の世界を持つ人がいる。

また、1人で何人も使い分ける落語はアバター芸と言える。

柳家花禄さんのインタビューも楽しく読めた。

与太郎」「若旦那」「粗忽者」が、違う角度で見えてくる。

 

脳は空より広大だ。宇宙は1つ(ユニバース)ではなく、マルチバース(多元的宇宙)である。

自分の中に豊かなマルチ・バースと分身を確保して、息が詰まりそうになったら、一歩、その「場」から抜け出て、歩き出してしまえばよい。

という、大変元気がもらえる内容。

 

この本に、実は私の撮影した写真が掲載されている。

1月に訪れた、ニューヨーク公共図書館。

池上先生は、この図書館フェローに選ばれて、1年間、カルマン・センターという書斎で『美と礼節の絆』を書き上げられたらしい。

この図書館は、無数のネットワークが交差してコミュニケーションが起きる「パブリック圏」の1つだと、記されていた。

そうそう、あの建物に入ると、緊張感と思想の自由が相まって崇高な気持ちになる。

それは来館者と過去の著者たち、設立のために寄付した人々、そして司書の認知ネットワークがスパークする場所だからですね。

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